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「新宿中村屋」の看板文字と中村不折 -日本の中の韓国を訪ねて

■2019/02/05 「新宿中村屋」の看板文字と中村不折 -日本の中の韓国を訪ねて
 JR山手線鶯谷駅の北口から5分のところに台東区立書道博物館があります。
書道博物館は、洋画家であり書家でもあった中村不折(1866-1943)が、40年あまりをかけて蒐集した東洋美術を有する博物館です。
殷時代の甲骨から青銅器、玉器、仏像、拓本、文房具、経巻文書など、重要文化財12点、重要美術品5点を含む文化財を所蔵しています。
 
書家の博物館というと敷居が高いように感じますが、不折の揮毫は私たちの回りにもあります。
カレーや肉まんで有名な「新宿中村屋」の看板文字、清酒なら「日本盛」のラベル、スーパーに並ぶ「信州一味噌」など、人々に長く親しまれてきました。
夏目漱石『吾輩ハ猫デアル』の挿絵や島崎藤村『若菜集』、伊藤左千夫『野菊の墓』などの装幀・挿絵もまた不折の作品です。
 
中村不折は、明治・大正・昭和にわたり、洋画界と書道界の両分野において大きな足跡を残した人物です。
若いころに画家を志した不折は、小山正太郎の薫陶を受けた後、フランスに留学。後に文部省美術展覧会の審査員や帝国美術院会員を歴任するなど、洋画界においてめざましい活躍をされました。
 
書道研究に傾倒した最大の契機は、明治28年正岡子規とともに日清戦争従軍記者として中国へ赴いたことにあります。
子規はすぐに帰国したのですが、不折は約半年をかけて中国、朝鮮半島を巡遊しました。
 
「従軍した。しかしそれは休戦の時で、李鴻章が日本へやつて来て、談判最中であつたと思ふ、それで自分は新戦地を歴遊して、朝鮮を経て日本へ帰つて来た。其故戦争と云うものは見なかつた。で、戦争と云うものゞ研究には全然失敗した。併し御蔭で支那や朝鮮の趣味を味ふことが出来た。自分が支那や朝鮮の趣味を解し始めたのは、全く此事件の賜物であると思ふ。是は自分の履歴には、余程重大な関係がある。」
「中村不折君 同君談話筆記」(『太陽』15-9 博文館 1909年/明治42年6月)
 
朝鮮の趣味とは、どのようなものだったのでしょうか。
「是は自分の履歴には、余程重大な関係がある」とつづられていることにも興味がわきます。
 
不折は、旅順を出発したのち金州ほか各地を回り、鴨緑江を超え朝鮮半島へと入りました。義州路を南下して平壌に至り、その後、大同江からは航路で仁川、釜山を経由して帰国。
帰国後に《朝鮮画行(1)義州より平壌に至る》(『日本』2016号)の連載が始まり、掲載は31回にも及びました。
 
『朝鮮画行』(1895年/明治28年)は、書道博物館で見ることができます。
当時の生活が生き生きと描かれた不折のスケッチ。作者の優しいまなざしが感じられてうれしいです。
 
不折は旅の途中、『龍門二十品』や『淳化閣帖』などの拓本をはじめ、漢字成立の解明に寄与しうる考古資料を目にし、資料として持ち帰りました。
この出会いがあってこそ、「新宿中村屋」の看板にみられるようなデザイン性ある文字‘不折流’が生まれたといわれています。
 
韓国では、どのような文字に心惹かれたのでしょうか。
私もソウルに行った際は、石碑などに書かれた文字に注目してみようかな。
 
書道博物館には、中庭を囲んで本館と中村不折記念館があります。
本館には、金石学に密接な関係のある収蔵品を常設展示しており、漢字の書法や文字の歴史をたどる上で非常に重要な資料を見ることができます。
金石学の資料を数多く収蔵しているのも博物館の大きな特色だそうです。
 
そのため、仏像や石碑がならぶ本館1階は特におすすめです。
金属や石に刻まれた文字に目を落としてみると、ひとつひとつ表情があることに気づきます。
言葉の意味を理解するのではなく、文字そのものを味わう経験はとても新鮮でした。
 
本館向かいの中村不折記念館には、碑拓法帖、経巻文書、文人法書などが収蔵、展示されています。
テーマに基づいた企画展・特別展を年4回行っており、書や文字を身近に感じられる工夫が随所に。
‘不折流’デビュー作となった『龍眠帖』(1908年/明治41年)や掛け軸、新聞挿絵に商店の看板やロゴマークなど、親しみやすい作品はこちらで鑑賞できます。
 
書道博物館は、昨年、半年間の休館期間を終え、秋にリニューアルオープンしました。
落ち着きある雰囲気は残したまま、本館にはイスが設置されたり、館内が少し明るくなったりとさらに居心地の良い空間になっています。
 
現在は、東京国立博物館とのコラボ企画展を開催中。
重要文化財などの貴重な作品を見ることができるおすすめ期間です。
また、二つの博物館をめぐるとたくさんの韓国の美しいものと出逢うことができます。
 
書道博物館と上野の東京国立博物館は、歩いて15分ほど。
お散歩するのにちょうどよい距離です。一度、訪れてみてはいかがでしょうか。
 
○書道博物館企画展
タイトル:王羲之書法の残影 ― 唐時代への道程 ― 
日程:平成31年1月4日(金)~平成31年3月3日(日)
王羲之が活躍した東晋時代と虞世南・欧陽詢らが活躍した唐時代の拓本や肉筆作品を展示。
「仏説菩薩蔵経巻第一残巻」「摩訶般若波羅密経」などの重要文化財も間近で見ることができます。
 
東京国立博物館では、「平成館」で特別展“顔真卿 王羲之を超えた名筆”を開催中。
そして、韓国語を学んでいる方でしたら「東洋館」へ。
朝鮮美術のある5階10室では、石器や金属器、三国時代の装身具・武器・馬具、陶磁、仏教美術の名品がずらり。
「朝鮮の王たちの興亡」など、期間ごとの展示テーマも魅力いっぱいです。
 
○書道博物館プラスの楽しみ!
書道博物館の魅力は、その所蔵品にとどまりません。
館内の案内版や注意書きにある‘不折流’の文字もみどころなんです。
学芸員さんが書いていらっしゃるそうなのですが…
 
「立ち止まらずにお進みください」
文字が美しすぎて、おもわず立ち止まってしまい…
 
「筋肉は裏切らない 文化財も裏切らない」
不折流の文字で‘筋肉は裏切らない’だなんて、ちょっとお腹がよじれます。
時流に乗った案内板が見つかるところは、見学者の期待を裏切りません。絶対!
 
「受験生がんばれ」
呉昌碩の図録に添えられたもの。
表紙の呉昌碩がちょっと横目でこちらを見ていて、私の努力を見透かされているよう。
今からでも本気になってしまうメッセージ! 受験生がんばれ! 私もがんばれ!
 
掲示物は、エスプリに富んだ作品ばかり。
これらを見に行くだけでも書道博物館を訪れる価値ありです!



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