学院ブログ

早稲田の中の散歩道 -日本の中の韓国を訪ねて

■2017/11/02 早稲田の中の散歩道 -日本の中の韓国を訪ねて
 高田馬場駅から都バスで10分。バスは、終点の早稲田正門につきます。
大学構内の立て看板が禁止されたのは、ずいぶん前。
思想ある立て看板が1枚も見当たらないことに、少し寂しさを感じる年代でもありますが、広々として気持ちの良いキャンパスです。
 
バス停近くの正門から大隈銅像に向かうと、すぐ左手にあるのが會津八一記念博物館。
會津八一は、1881年(明治14)に新潟市で生まれた美術史学の研究者です。會津は、学生たちに学問の理解を深めてほしいと美術作品、資料のコレクションを始め、当時より博物館の設置を提唱、その思いが今に引き継がれました。
 
建物は図書館として1925年に完成し、現在では大学で2番目に古い鉄筋コンクリート造りです。すっきりとした外観ながら、入り口を抜けると扉を飾る八角星の透かし彫りや美しい曲線の柱が見え、どちらを向いても優美。建物全体が美術品のように思えてきます。
 
奥に進むと中央階段の上で横山大観、下村観山合作「明暗」(1927年)が出迎えます。
観山が太陽に象徴される「明」を、大観が「暗」をあらわす雲煙を描き、学びを通して暗黒世界から明るく澄んだ世界に進みうることを描いているそう。
メインホールから「明暗」に歩み寄っていくと、徐々に作品が見えてきます。暗やみの向こうから光に導かれるように先へ。すべてを前にしたときには、ただただ背筋がしゃんとしました。
 
會津八一記念博物館では、現在、會津八一のコレクションをはじめ、早稲田大学で戦前より行われてきた考古学の発掘資料、寄贈された近現代の美術作品、アイヌ民族資料などが展示されています。
個人コレクションの寄贈も多く、東洋美術、近代美術、考古学を中心として、収蔵品はおよそ18,000点。陶磁器、仏像、拓本、書画などの美術品のうち、約900点は韓半島に由来するそうです。
 
訪れたときは富岡重憲コレクション展示室で、「茶の道具」をテーマとした展示を行っていました。富岡が蒐集した唐物、和物から高麗茶碗に至るまでの茶碗の数々と釜、茶入と茶杓、花器、床を飾る軸物などの茶の道具。どれも名品で存在感があり、韓半島から来た作品は特に目を引きました。
 
このほかに展示室は、1階と2階。
広々とした2階の企画展示室では、特別展を開催しています。
おおよそ1か月ごとに展示が変わり、「アフリカ・マヤ資料」「禅書画」「やきものに見る吉祥」「色々な刷り物」など、国と地域やテーマが豊富です。
韓国・朝鮮をテーマとした特別展には魅力がありますが、思ってもいないテーマで、韓半島の作品と出会えたりするのも楽しみです。
 
館内の観覧を終え、建物を半分囲むようにある小路を散歩してみました。
 
まず出会うのが「石人(석인)」たち。
石人は、陵墓を守るためにおかれたもので、文官石像(문석인)、武官石像(무석인)、童子(동자석)などがあります。
ここには2対4体。會津が大学近くの面影の骨董屋で買い求めたもので、学園紛争のころ移設され現在に至っているそうです。学園紛争時に学生たちは石畳みを外して投げつけたと聞きます。投石の材料にならなくて本当によかった。
4体は、それぞれ高さのある帽子に厚手のお召し物を着て笏を持っています。目鼻立ちすっきりで立派なお姿です。
 
残念なのは1対が垣根の内側にあり近づけないこと。暑い盛りは枝が生い茂ってよく見えません。首をあっちにしたり、こっちにしたり、垣根の隙間から拝顔するのにバタバタしてしまいました。変な人に思われないためにも、早春や秋、冬に訪れるのをおすすめします。
 
少し進むと背中が見えてくる「法首(법수)」は、欄干(난간)の隅に立てられた柱頭(기둥 머리)です。村や寺の里程標として立てられていました。
こちらは朝鮮中期(16世紀)作。荒削りで目玉の掘り込まれていない素朴な瞳。朴訥なお2人です。なんでも聞いてくださりそうな温かさがあります。
その傍らには「濟州童子像(제주 동자석)」。
ちょっとやんちゃな顔つきの子どもたち。濟州島の墓に建てられていた男の子を象ったもので、朝鮮後期(19 世紀初~中期)作。法首とともに、大学創立125 周年を記念して高麗大学校校友会会長から寄贈されたそうです。
 
さらに記念図書館の入り口まで進んでいくと「石羊(석양)」がいます。
少し腰を落として眺めてみました。丸い鼻先を突き出してくるような人懐っこさです。
石羊は、王陵(왕릉)を取り囲む土塀の中に置くもので、李氏朝鮮時代のものとのこと。
英国人のエリザベス・アンナ・ゴルドン(1851-1925)の寄贈で、当初は大隈会館に置かれていましたが、1925(大正14)年に移動してきたと記録にあります。
 
小路にいる石像たちは、いろいろな思いが重なり集まってきているのですね。
彼らとの出会いは、韓国語学習までよき方向に導いてくれそうな感じがしました。
 
早稲田の中の韓国は、小さな時間を見つけて気軽に訪れたい場所です。
會津八一記念博物館の入館料は無料。ハングルのパンフレットもあり、私たちの学びを助けてくれます。石像たちは外で待っていてくれるので、いつでも会えるのがうれしいです。
ゆったりと韓国と出会う時間をぜひ。



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