明るい陽射しの初夏、そろそろお出かけしたくなりませんか。
先日、小さな美術館へ行ってきました。そこでの新しい出会いをご紹介します。
井の頭線駒場東大前駅から歩いて5分ほどのところにある日本民藝館。
2ケ月ほどの休館を経て6月に再開し、現在は特別展 “洋風画と泥絵 異国文化から生れた「工芸的絵画」” を開催中です。
まずは、本館の正面階段から2階へと向かいました。
常設展示室の第1室、第2室には、柳宗悦(1889~1961)が愛した朝鮮のコレクションが並んでいます。いつ訪れても変わらない雰囲気、少し小首をかしげた白磁の壺にほっとしました。穏やかに美と向き合えるのがうれしいです。
奥にある大展示室は、特別展の主要スペースです。
今回は、江戸時代後期の洋風画と泥絵を中心にカルタや金唐革、和時計などの工芸品が並べられています。
江戸時代後期は、オランダや中国から伝わった芸術文化が、日本の絵画や工芸に多くの影響を与えた時代です。泥絵には、西洋画法である線透視図法・遠近法(linear perspective)、陰影法(shading technique)が使われており、構図に奥行きがあるのが特徴。作品からは、浮世絵にはないスケールの大きさと近代の幕開けを感じます。
大展示室の奥と右には、凸レンズから覗き見る眼鏡絵や影からくり絵が。
影からくり絵とは、描かれた一部を切り抜き、そこに薄い紙を貼ったもので、部屋を暗くして裏から光を当てると切り抜き部分が明るくみえます。今回は下からライトが当てられるよう展示ケースにスイッチがあり、思わずつけたり消したり。大名屋敷の行灯にぼっと明かりが灯ると心まで照らしてくれるようでした。
今回の特別展も江戸の情緒が感じられる素晴らしいものばかり。
その中でも魅力を感じたのは、第3室の「冊架文房図屏風(朝鮮時代)」でした。
二曲一双の屏風には書棚が描かれ、棚には本や文房具、陶磁器、香炉、巻物、果物、そして花まで活けてあります。日本民藝館には何回か訪れていますが、この屏風は初めて目にしました。
泥絵の描き方は日本画と近いので、キャンバスの上で色を混ぜることができません。香炉ひとつを見ても明るい緑の下色を塗り、模様が引き立つよう影をぼかし、ハイライトをいれて立体感を表現。さらに色を重ねていっているのがわかります。棚に置かれたものはすべて丁寧に描かれていて、どれも愛おしいです。
この「冊架文房図屏風」は、韓国語で「책가도(冊架圖)」というそう。
幾段かの棚に책(本)、도자기(陶磁器)、문방구(文房具)、향로(香炉)、청동기(青銅器)などが主に屏風に描かれたもので、「책거리(冊巨里)」とも呼ばれるものも。※厳密には違いあり
책가도は、朝鮮王朝第22代王の正祖(정조1752~1800)が、1791年、王座の背面へ置いたことから王族や両班の間で用いられ、やがてさまざまな人々に流行しました。
当時の人々にとって、本は「食事をせずとも傍らに積んでおきたいもの」だったそう。日本民藝館の「冊架文房図屏風」にも、手綴じの本が積まれた様子が複数描かれています。書斎や男子の冊架部屋に飾られたという小さな屏風には、たくさんの憧れが詰まっているのですね。
韓半島の展示品をご紹介しましたので、柳宗悦の言葉を。
私は朝鮮の藝術よりも、より親しげな美しさを持つ作品を、他に知る場合がない。それは情の美しさが産んだ藝術である。「親しさ」Intimacy そのものが、その美の本質だと私は想う。いつもかく想う時、どうして私は、その作者と同じ血を受けた今の朝鮮の人々に、親しさを感ぜずにいられよう。私は早く貴方がたから離れている関係を破らなければならぬ。-『民藝四十年』岩波書店 1984(昭和59)年11月16日初版第1刷発行,初出『改造』1920(大正9)年6月号
情の美しさが産んだ芸術たちに、出会いたくなってきませんか。
ちなみに「冊架文房図屏風」の間には、「花鳥文 ガラス絵行灯(朝鮮時代)」が置かれていました。こちらは、女の子用かな。ガラスに描かれた繊細な絵の佇まいがとても素敵。ぜひ、近くでご覧いただきたいです。
*日本民藝館 〒153-0041 東京都目黒区駒場4-3-33 http://www.mingeikan.or.jp/
久しぶりに訪れてみると玄関でスリッパに履き替えるのではなく、靴カバーが用意されていました。ちょっとした変化に新しい時代を感じます。
*「책가도(冊架圖)」
正祖の玉座に置かれたのは、八帖の屏風に仕立てた荘厳なものでした。
従来の「일월오봉도(日月五峰圖)」ではなく、なぜ冊架圖を作らせここに置いたのか、その思いを臣下に語ったという逸話もあるそうです。
18世紀後半から19世紀に流行した책가도。中国清時代の文房具が描かれていることも多く、透視図法や陰影法が使用されています。その模様から西洋の画法が中国を通じて伝わったものであると考えられ、日本の洋風画や泥絵と同様、西洋や中国の文化が韓半島にも影響を与えていることがわかります。
ソウルの美術館で行われた企画展の図録には「持ち主の好みと職業により違いがあり、並べられている本だけでもたくさんの視覚的要素を提供している」とありました。見る人によって楽しみ方がたくさんあるのも책가도の魅力のようです。
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