一歩遅れて、ドラマ『愛の不時着』を追いたてられるように見て、画面の前で厚かましくも涙を流した。
生きていれば、喜びだけでなく悲しみと不運があること。そして、繰り返される悲しみの停留所の中でも、青天の霹靂のような出来事の中でも、最後は幸せになれることに。
韓国ドラマ『愛の不時着(사랑의 불시착)』は、北朝鮮の将校役をヒョンビン(현빈)、北に不時着する財閥令嬢役をソン・イェジン(손예진)が演じ、韓国のみならず、日本やアメリカなど世界で話題となったドラマだ。
半島の分断という重い現実を背景に、涙と笑いにあふれたロマンチックコメディという切り口で世界を魅了。韓国では、tvN土日ドラマの視聴率1位を記録して放映を終了した。
ストーリーは、パラグライダー中に思わぬ竜巻に巻き込まれ、北に不時着してしまったユン・セリが、ヒョンビン演じるリ・ジョンヒョクと出会うことから始まる…。
ラブロマンスは苦手と避けてきたのに、1話から16話まで一気に見てしまった。
ヒョンビンの繊細な演技に心を奪われたことは間違いないのだが、まるで追われているかのように、2日間で見終えてしまった理由はなんだろう。
ドラマ評を見ると、主役、準主役以外のキャストの魅力に触れているものが多い。たしかに誰一人としてかけてはならない人物ばかりだ。役柄も俳優陣もすばらしい。
ロケ地も注目の的で、北朝鮮の暮らしを脱北者の方の話を聞き丁寧に描いたことも人気のひとつだ。
しかし、どの理由よりも私を夢中にさせたのは、ドラマに「太極(태극)」が描かれていたからだと思う。
太極文様は、「陰と陽の調和を象徴し、宇宙万物が陰陽の相互作用によって生成して発展すると言う大自然の真理を形象化したもの」をいう。
「陰と陽の調和」とは、陰陽が同じ面積でありながらきっちり分かれているのではなく、どこかに交じり合いがあること。陰陽の中に小さな丸があるものは、万物に100%はないことを象徴的に表しているそうだ。
陰の中に陽があり、陽の中にも陰があり、そして、何かがつながっている。
それぞれ不運や悲しみはあっても、このドラマには誰一人として100%の悪人がいない。セリもジョンヒョクも母親たちやク・スンジュン、ソ・ダン、また、チョルガンさえも…。
北の軍人チョ・チョルガンは、“悪”として描かれる。
彼が人を脅すときの常套句は「自分には親も兄弟おらず怖いものはない」なのだが、けれどもこの場面にはどこか悲哀が漂っていて、それがドラマにぬくみを植える。
だからこそ、ジョンヒョクを道連れにしようとした最後の場面で、チョルガンの瞳の奥底に見えた芥子粒のようなわずかな光が、悲しく私の心をつかんだ。
もちろん、あの場所で死んでくれないと困るのだけど。
ここに食事がある、朝鮮式の冷麺を食べて、ふかし芋を食べて、干しダラとビールを飲んで、インスタントラーメンを食べる。ドラマの食事は、どれもおいしそうなものばかりだ。
食べる場面が多いのは、人生が悲しみの停留所の中にあっても、温かな食事が喉元を通る命の感覚を伝えたかったのかもしれない。心を通わせずにはいられない、貝のガソリン焼きのような甘い味を。
ドラマを薦めてくださった先生は、「あれはヒョンビンがカッコいいから人気なんだよ。ファンは女性ばかりでしょ」とおっしゃったが、私は知っている。
50代、60代のおじさんたちが、「どっぷりハマった」「廃人になるから見ないほうがいい」「私は何回目だ」とSNSで発信していることを。おひとりの朝鮮語研究者(아저씨)は、「次は北の言葉を書き留めながら」とおっしゃるが、見た直後の感想を見る限り、ダンと再び出会いたいがための言い訳に過ぎないことも…。
最終話、耳野郎であったチョン・マンボクが草原で風の音を聞いている。
韓半島の人々が風のように自由に川を渡り、鳥のように自由に降り立つことができる日がくるのはいつだろうか。画面を見つめながら心に流れてきたのがOSTではなく、ザ・フォーク・クルセダーズの「悲しくてやりきれない」だったのは、歳のせいかもね。
この“나쁜 드라마”のせいで、寝不足で顔はむくむし、頭は痛いし、OSTは歩きながら歌っちゃうし、韓国料理も食べたくなるし、叶うことのない恋をしてしまったけど、これだけははっきり言える。
『愛の不時着』は、見たほうがいい!
韓国語を習っている方には、素敵なセリフに出会えるのもドラマの魅力かも。
바다, 햇빛, 진달래, 이슬, 양털 구름, 삼색 고양이, 솔개, 이건 아닌가? 솔개는 취소, 장미, 산들바람, 첫눈,
피아노….
美しいことばって、いいなぁ。とりあえず、トマトの苗を買いに行ってきます。
*話題のキャストは!
『愛の不時着』では、『パラサイト 半地下の家族(기생충)』に出演の半地下のお母さんと地下の男が姉弟で出てくるキャスティングも話題となりました。
彼らだけでなく登場人物すべてが魅力的でいとおしい。ストーリーがわかっていても何回も見てしまう理由がここにあるのかもしれません。
ちなみに、2020年7月から日本で公開されているユ・へジン(유해진)主演の映画『マルモイ ことばあつめ』にジョンヒョクが住む村の人民班長をされたキム・ソニョン(김선영)が出演。韓国語教室に通っている方なら、『マルモイ ことばあつめ』もぜひ。酔っぱらっていない人民班長さんに出会えます。
『マルモイ ことばあつめ』(原題:말모이)は、2019年に韓国で公開された歴史映画。朝鮮語(韓国語)の使用が禁じられていた日本統治時代の朝鮮半島で実際に起きた朝鮮語学会事件を基に、朝鮮語の辞書を作るために奮闘した人々の姿が描かれている。映画『タクシー運転手 約束は海を越えて』の脚本家であるオム・ユナの長編映画監督デビュー作。
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