学院ブログ

練炭の火で誰かを温めたことはあるか ― 韓国ドラマと詩

■2022/10/26 練炭の火で誰かを温めたことはあるか ― 韓国ドラマと詩
 韓国ドラマには、詩を朗読する姿がよく描かれます。
この夏、ドラマファンの心をつかんだNetflixの韓国ドラマ『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌(이상한 변호사 우영우)』でも、何篇かの詩が紹介されました。
 
ちょっとドラマのおさらいを。
主人公は、一流法律事務所で働き始めた新米弁護士のウ・ヨンウ。IQの高さと抜群の記憶力、先入観や感情にとらわれない自由な思考を持てることが強みである一方、自閉スペクトラム症という生きづらさをかかえています。
 
第1話は、ウ・ヨンウが「法務法人ハンバダ」で仕事をするところから始まります。
ドラマは毎回、ヨンウとハンバダの弁護士たちが「1つの事件」に立ち向かう構成です。事件は、夫婦関係、LGBT、相続、著作権、高速道路建設、教育・児童の置かれた環境、知的障害者、不労所得、女性問題、雇用、外国人労働者、個人情報流出など、現代社会が抱えるものばかり。
 
テーマはかなり重いのですが…
新しい事件の挑戦状が届くたびに、弁護士たちが力を合わせ解決していく姿は爽快!
そこに登場人物それぞれの可愛らしさが魅力として加わり、もう、一気見せずにはいられませんでした。
 
第12話 ヨウスコウカワイルカ(양쯔강 돌고래)に描かれたのは、社内夫婦のうち、妻に希望退職を強要した保険会社の担当者と退職させられた妻たちの姿です。
これって、明日は我が身なのではないか…
それぞれの弁護士の描かれ方、生き方も対象的で心がぎゅっとしました。
 
そして、12話の終盤に出て来た詩のひとつが、アン・ドヒョン(안도현)の「연탄 (練炭一枚)」です。
妻側の弁護士が屋上で詩を朗読する場面は、ある事件と人物をモチーフにしたのではないかと韓国で議論を引き起こしました。そのためブログで取り上げるのを少し悩みましたが、アン・ドヒョンは現代詩人を代表するひとりで、作品は教科書にも掲載されており、他のドラマでもよく出てくるので紹介したいと思います。
 
연탄 안도현
 
다른 말도 많고 많지만
삶이란
아닌 누군가에게
기꺼이 연탄 장이 되는
 
방구들 선득선득해지는 날부터
이듬해 봄까지
조선팔도 거리에서 제일 아름다운 것은
연탄차가 부릉부릉
힘쓰며 언덕길 오르는 거라네
해야 일이 무엇인가를 알고 있다는 듯이
연탄은, 일단 몸에 불이 옮겨 붙었다 하면
하염없이 뜨거워 지는
매일 따스한 밥과 국물 퍼먹으면서도 몰랐네
몸으로 사랑하고 나면
덩이 재로 쓸쓸하게 남는게 두려워
여태껏 나는 누구에게 연탄 장도 되지 못하였네
 
생각하면
삶이란
나를 산산히 으깨는
눈내려 세상이 미끄러운 어느 이른 아침에
아닌 누가 마음 놓고 걸어갈
길을 만들 줄도 몰랐었네, 나는
 
後半一部だけ、日本語訳を…
 
一塊の灰として 寂しく残るのが怖くて
今まで私は 誰の練炭ひとつにもなれなかった
 
思えば
人生とは
自分を
粉々に砕くこと
 
雪が降り 世の中が滑りやすい ある朝に
自分ではないある人が 安心して歩いていく
その道を作ることもできなかった,私は
 
『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』は、ウ・ヨンウを演じるパク・ウンビンさんの可愛らしさとカン・テオさん演じるイ・ジュノとの恋の行方に注目が集まり、日本で大人気となりました。
しかし、私が感じた魅力は、登場人物それぞれが抱える「強さと弱さ」と「当事者と非当事者の背中合わせ」が描かれているところです。
 
そして、ドラマで朗読された연탄 」にも同じ魅力を感じています。
最後の場面である雪の朝、白く覆われた道を見えるものも見えないふりをして「歩いている人」は自分なのではないかと怖くなりました。するっと滑ってしまいそうな世の中で、明日は自分が雪の下で押しつぶされているかもしれないのにと…
 
韓国のすばらしい詩にも出会えるドラマ『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』は、おススメです。かわいい恋愛ドラマとして見ても楽しいので、ぜひ!
 
안도현(安度昡、アン・ドヒョン
1961年慶尚北道生まれ。1981年大邱毎日新聞新春文芸に詩「낙동강洛東江)」、1984年東亜日報新春文芸に「서울로 가는 전봉준ソウルへ行くチョン・ボンジュン)」が当選し、作品活動を始めた。詩集のほか大人のためのおとぎ話、エッセイなど多数。
練炭の詩は、二行詩もあります。こちらはパワーが湧く感じかな。
 
너에게 묻는다 안도현
연탄재 함부로 발로 차지 마라
너는 누구에게 한번이라도 뜨거운 사람이었느냐
練炭の灰やたらに 足で蹴るな
君は誰かに一度でも熱い人であったか

 
Scroll Up